ズデーテン独奏曲 弧を描く喜劇と悲劇 その二


チェコスロヴァキアとフランスとの関係を、今回は「ミュヘン会談」を軸に見ていきたいと思います。

「ミュヘン会談」は結果としてドイツの暴走を加速させてしまった、言うなれば時代の要所です。このことから、どのようにして悲惨極まる戦争に突入してしまったのかを探ります。
そしてそこから見えてくる、戦争を防ぐためのヒントについても考えてみたいと思います。


まずミュヘン会談までのいきさつを簡単に見ていきます。

第一次世界大戦後、敗戦国のドイツには莫大な賠償金が課せられます。さらに1929年に起きた世界恐慌の影響を大きく受け、国内は混乱に陥ります。
その中から台頭してきたのがヒトラー率いるナチ党です。彼はヴェルサイユ条約で禁止されていた再軍備を1935年に宣言。
翌36年にフランス国境のラインラントへ進駐すると、勢いに乗ったヒトラーは38年にオーストリアを併合。
そしてチェコスロヴァキアのズデーテン地方の割譲を要求します。
そこに当時のイギリス首相チェンバレンが介入し「ミュヘン会談」が開かれることとなりました。

1940年にフランスがドイツに降伏したとき、当時のイギリス首相チャーチルはこう語っています。
「この戦争は、すでに1938年のミュヘン会談において敗れていたのだ」と。

この会談でイギリスとフランスは宥和政策をとり、ズデーテン地方の割譲を認めてしまいます。
かくして、いよいよ力をつけたドイツはポーランドに侵攻、第二次世界大戦へと突入していくことになります。

ミュヘン会談のメインテーマになったズデーテン地方とは、現在のチェコを弧を描くように囲んだ、チェコとドイツ、オーストリアとの国境地域です。
ここはチェコスロヴァキアにとって防衛上欠くことのできない要衝であり、また同国有数の工業地帯でした。
ここをわたすのは文字通り命とりです。

再軍備の宣言から始まり、ラインラント進駐、オーストリア併合。ズデーテン地方割譲に至る前に多くの軍事行動があったにもかかわらず、なぜヒトラーをとめられず第二次世界大戦へとつながっていってしまったのでしょうか。

そのカギは第一次世界大戦にあります。
前例のないほど悲惨な被害を受けたヨーロッパの国土は荒廃し人々は疲弊。それにより戦争だけはしてはいけないという空気が広がります。平和主義の台頭です。
特にその動きが強かったのがイギリスとフランスでした。この二か国は戦勝国でありながら莫大な戦費を回収できないだけでなく、多くの人が戦死し街が傷痍軍人であふれていました。
このような惨事を目の当たりにした両国の国民は強く平和を望みます。戦争につながりそうな政府の動きを許しません。

そこに目をつけたのがヒトラーでした。
再軍備を宣言した際ドイツは脆弱な軍隊しか持たず、いくら疲弊しているとはいえ大軍を擁するイギリスやフランスと戦争になれば、ほぼ間違いなく敗戦していたはずです。
しかし平和主義におされたイギリスとフランスは、事実上追認してしまいます。
続くラインラント進駐も、ドイツに対して何も行動を起こさない。
ラインラントは重工業の一大拠点であり、ここをドイツに明け渡せば軍拡大を招くことは必須でした。にもかかわらず、です。
そしてオーストリア併合を経て、ズデーテン地方割譲まで至ってしまいます。

しかしここならまだヒトラーをとめられたと言われています。ラインラントを手に入れたとはいえ、まだドイツ軍にフランス軍と対決できるだけの力はありませんでした。そして、チェコスロヴァキアはフランスの同盟国であり、ヴェルサイユ条約でフランス軍の出兵は認められていたのです。
それなのにフランスはピクリとも動きませんでした。


東西冷戦を経て、現在日本でも「安全保障法案」の問題など、国の防衛に関することが盛んに議論されています。
この歴史から知恵として活用できるものは何でしょうか。
それは、国民が戦争をおこす、ということかもしれません。

当時のイギリスとフランスは民主主義の根付いた国でした。それゆえに民意には逆らえなかった。
また、民主主義は独裁者を生み出すことも見えてきます。ヒトラーは民主主義の方法をそのまま使って、選挙で独裁者へと上り詰めました。そしてこれはヒトラーに限ったことではなく、歴史上民主主義はカエサルやナポレオンといった独裁者を生み出してきたわけです。
現在の日本において民主主義がきちんと機能しているとは言えませんが、民主主義の基本的な力の根源は「国民」です。だからいつでも自分たちが独裁者を生み出す可能性、戦争をおこす可能性をはらんでいる、ということは認識しておかなくてはなりません。
少なくとも、「戦争反対」と叫んでいるだけでは戦争は防げないことが、この歴史を見ることで分かるはずです。




グループDに入ったチェコは6月13日トゥールーズで前回王者スペインと、グループBに入ったスロヴァキアは6月11日ボルドーでウェールズと、それぞれ初戦を戦います。
ひそかに、「パネンカ」が見られることを期待しています。



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