「失意泰然 得意冷然」ベティスの2018/19シーズン前半戦総括



『失意泰然 得意冷然』

 我らがレアル・ベティスの、2018/19シーズン前半戦はこの言葉を言い聞かせる日々だった。

 昨シーズン、キケ・セティエンが新監督に就任したチームは快進撃を見せ、見事にUEFAヨーロッパリーグ出場権を獲得し、素晴らし形でシーズンを終えた。

 そして今シーズン、リーグ戦と並行してヨーロッパのコンペティションにも参加するベティスは、夏に積極的な補強を遂行。前半戦は結果として充分満足のいく形で終えることができた。

 ここでは、ベティスの2018/19シーズン前半戦の総括として、

結果

 各コンペティションの試合結果、個人成績

分析

 大体のスターティングメンバー、戦術、その他の問題

課題

 「分析」から見えてくる課題、それに伴う冬の移籍

 についてまとめていく。

 なだらかだが波のあるベティスの前半戦






大成功だった夏の移籍


まずはシーズン前の移籍市場について。
 昨シーズンブレイクし、チームの中心として活躍したファビアン・ルイスがナポリへ移籍したものの、その穴を埋める人材として、セルヒオ・カナーレスをフリーで獲得。
 
 その他にも、パウ・ロペスと乾貴士という主力級の選手をフリーでチームに加え、ウィリアム・カルバーリョ(20mユーロ)をスポルティングCPから、シジネイ(4.5mユーロ)をデポルティーボ・ラ・コルーニャから、ジオバニ・ロ・チェルソ(2mユーロ[ローン])をパリ・サンジェルマンから獲得した。

 これらの資金調達も、ファビアンの移籍(30mユーロ)をはじめ、ヘルマン・ペッセージャ(9mユーロ)リザ・ドゥルミシ(6.5mユーロ)、アントニオ・アダン(1mユーロ)の売却によってしっかりと確保した。

 結果から言ってこの移籍は大成功。獲得した選手たちがことごとく活躍している。乾については、スタメンを勝ち取ることができず、現時点(1月22日)でアラベスへの移籍が取りざたされているが、クラブのマーケティングの側面で大きな役割を果たした意味で、成功と言っていい。

全ての大会でコンペティティブな前半戦


 次に各コンペティションの試合結果を見て行こう。

ラ・リーガ

 7位:7勝5分7敗 勝ち点26 22得点23失点

UEL

 決勝トーナメント進出:3勝3分 グループ1位

コパ・デル・レイ

 準々決勝進出

 すべての大会でコンスタントな結果を残しているのは、充分に評価できるポイントだ。簡単ではないグループを戦ったUELも、無敗で1位通過し、国王杯では準々決勝に進出している。

 ひとつ懸念材料があるとすればリーグ戦だ。今シーズンの目標はUEL出場権の得られる6位以内だが、それを掴み獲るには、なだらかながらも少し波がありすぎる。昨シーズンから続く、調子の悪い相手に完敗する“癖”は、改善できる原因があるのだとすれば、是非とも改善してもらいたい。



個人成績


 得点王:4点 カナーレス、ロ・チェルソ
 アシスト王:5回 クリスティアン・テージョ

 現在のチームを牽引する2人が、そろって4得点を記録しチーム内得点王に。ストライカーが3点以上決められない、寂しい結果に思えるものの、総得点はリーグ8位タイの22点記録しているため、決して得点力不足なわけではない。

 決して先発出場の多くないテージョが、チームトップのアシスト回数を記録している理由は、次の「分析」の章で述べる。


リスクヘッジに主眼を置いたゲームプラン





昨季後半から継続の3バックシステム


 前半戦のベティスについての「分析」に移る。
 まず、今シーズンのベティスの特徴として、昨シーズンにも増してボールを保持する傾向が強まったことが指摘できる。

 昨シーズンの後半戦から導入した3バックが機能し、今シーズンの前半戦も3バックを基本とした、3-4-2-1か3-1-4-2の選手配置をメインとした、ポジショナルプレーをベースとしているベティス。

 ここで、前半戦の大まかなスタメンを見てみよう。




 ほとんどの試合で、異なる選手の組み合わせを使用しているため、あくまで“大まかな”メンバーとしている。

 ボールを保持する傾向が強まった理由をひも解く上で、注目すべきポイントは、シジネイとロ・チェルソだ。

 開幕当初はズハイル・フェダルが務めることの多かった、3バックの左CB。そこに、より俊敏性があり、ショートパスとビジョンの優れたシジネイが入ることで、プレス回避できるポイントが増え、ボールを前線まで運んだ際も、無理に縦に付けるとなく、詰まれば攻撃を一旦“やめる”ことができるようになった。

 ロ・チェルソの起用にも同じようなことが言える。PSGでは、主にホールディングMFを務めることが多かったアルゼンチン人を、セティエンは前線に配置することで、キープ力をプラス。それとともに、詰まれば“やめる”選択が取れる選手を増やした。

なぜ、“やめる”選択は重要なのか。


彼らではなく、フェダルやブデブズが出場していた際は、詰まっているのに攻撃を“やめない”シーンが現在よりも多かった。これにより何が起きていたかと言うと、相手にボールを奪われてカウンターを受けるシーンが多かったのだ。

 まず、セティエンが改善したかったのはこのポイントだろう。無理をしないことで、相手に「偶然が起きる」チャンスを減らしたのだ。

 さらに、現代フットボール、特にこのレベルになってくると、一度失ったボールを奪い返すのは容易ではない。守備の際は、どうしても受動的に動く時間が長くなるため、能動的に動いている攻撃時と比べて、精神的な疲労度が高まるだろう。
 
 多くの大会に参加するチームにとって、いかにコンディションを維持するかは、最も重要な課題のひとつであり、その意味でも、できるだけボールを保持し、試合をコントロールすることは重要なのだ。

テージョが数字を残すわけ




 “やめる”選択が増えたことで、安定したボール保持はできるようになったものの、今度は「崩し切れない問題」が発生。よりロジカルにプレーすることで、相手に「偶然が起きる」チャンスが減ったのと同時に、ベティス側にも「偶然が起きる」チャンスが減った。

 その中で、最も「偶然が起きる」選択をしているのが、テージョなのだ。バルセロナのカンテラ出身のウィンガーは、現在のチームでは珍しい、“やめる”選択をあまり取らない(もしくは取れない)選手だ。常にドリブル突破を狙い、クロスボールやシュートも多く放つ。

 もちろんこれにより、ミスも生まれるが、彼の存在があるおかげでチャンスが増えているのも事実だ。加入当初は”やめる”選択が少なすぎたものの、現在ではそのバランスもよくなってきており、後半戦のキープレーヤーのひとりになるかもしれない。

4バックは応急処置ではない





シジネイ負傷以前から用意済みだった


 戦術の核のひとりでもあるシジネイが、エイバル戦で負傷したことを受け、セティエンはレアル・ソシエダとの国王杯1stレグと、続くリーグでのレアル・マドリード戦で、4バックシステムを使用。CBにはマルク・バルトラとアイサ・マンディが起用された。

 前述した通り、フェダルを左CBとして起用するには不安があったことも、4バックを採用したひとつの要因だろうが、私はセティエンが、現実的なオプションとして4バックシステムを元々持っていたと考えている。

 なぜなら、今シーズン4バックを用いるのはラ・レアル戦が初めてではなかったからだ。セビージャとのデルビでは、攻撃時のオーガナイズを4-3-3のようにしていたし、10節のヘタフェ戦では、2失点後に4-3-3にシフトしている。

 セティエンがベティスの監督に就任して、最初に採用したシステムが4-3-3だったこともあるが、メインとしてではないとしても、確実にオプションとしては用意してあると言ってよく、個人的には、これから重要度が増すだろうと考えている。


最後の局面でどう仕留めるか




チャンス不足はチームの問題


 以上の「分析」を踏まえたうえで、後半戦に向けた「課題」を探る。
 まず改善したいのは、FWに得点が少ない現状だろう。これはFWの選手たち個人の質の問題もあるが、チームとして取り組んでいる戦術の影響を大きく受けているため、一概にFWのせいだとは言い切れない。

 彼らに任されているタスクは、中央でCBを張り付けにすることと、下がってボールを受けたり、スペースメイキングをすることが主だ。このタスクをこなしながら、メインであるゴールも狙う必要がある。

 すでに解決策になりつつあるのが、サイドからのクロスボールだ。これは、アントニオ・バラガンの復調により、右からの崩しが冴えてきたことが大きな要因だろう。しかし、マドリー戦では、押し込んだ状況下で、左IHでプレーするアンドレス・グアルダードが、ワイドにポジションをとる場面が散見されので、チームとしてクロスボールの狙いを持っていると言っていいだろう。

 そして、ポジショニングとタイミングが重要になるこうした場面で、アントニオ・サナブリアの存在感が増しつつあるのも好材料だ。ただし、まだ物足りなさは残ったままなので、チャンスの数を増やす工夫は今後も必要だ。

獲得すべきはWB、CF


 この課題を克服するために改善すべきポジションは、ずばりWBだ。バラガンとジュニオール・フィルポが好調を維持している場合は問題ないものの、ひとり欠けたり、コンディションが悪い場合などに一気に質が落ちてしまう。

 現状代役をつとめているのはフランシス・ゲレーロとテージョ。両者ともに着実に成長しており、プレー選択の質も向上しているものの、残念ながらクオリティ不足は否めない。

 フランシスはまだ若く、成長の余地も十分にあるだろうが、現時点では好守両面において全体的に質が低い。テージョに関しては、そもそも適正ポジションではない。

 夏に獲得の噂があったオレクサンドル・ジンチェンコなどは、中央だけでなく、WBもできる貴重な人材かもしれない。

 そしてもうひとつ補強したいのがFWだ。チャンス不足がチームの問題であることは確かなのだが、キャラクターを持ったFWがもう一枚いると、より戦いやすくなるはずだ。例えばフェルナンド・ジョレンテのような、抜群にヘディングの強い選手がいれば、アクセントは付けやすく、課題解決に近づくはずだ。


後半戦のその先…




「セティエン後」の計画


 フロント陣の働きもあり、今までの歴史を考えれば、全体的に満足のいく日々を過ごしているベティス。その中で最も大きな存在感を放つ人物のひとりが監督のキケ・セティエンだ。

 バルセロナの監督就任の噂も出ているクライフ信者は、どこかのタイミングで必ずベティスを去るだろう。私たちファンを含め、ベティスはその後のことも考えておくべきだろう。

個人的監督候補3人


 候補者を考えるうえで、重要なのは言語だろう。リーガの他のクラブを見ても分かるように、後任にはスペイン語話者が相応しい。次に志向するスタイルだが、セティエンが作り上げたポジショナルプレーを、まずは継続して採用するタイプの人材が好ましい。

 それを考慮したうえで、「セティエン後」の監督候補を3人上げておきたい。

1.エデル・サラビア
 最も現実的な選択肢のひとつ。現在コーチを務めているため、引き継ぎもスムーズだろう。監督としての手腕は未知数な部分。

2.フランシスコ・ロドリゲス
 現在ウエスカで指揮を執る40歳の青年監督は、アルメリアとルーゴの監督を務めた際に、脚光を浴びた注目株。今シーズンは試金石となるだろう。

3.マッシモ・オッド(ワイルドカード)
 スペイン人でないだけでなく、スペイン語話者でもないオッド。個人的に好きな監督であるという理由だけで候補に挙げた。彼の監督キャリアは大きく負け越しているが、彼がペスカーラで見せたポジショナルプレーは、称賛に値する。



 前半戦の総括も終わらないうちに、ジローナとの激戦を3-2で辛くも制したベティス。後半戦も「失意泰然 得意冷然」と自分に言い聞かせてスタートを切った。

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